大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(ラ)690号 決定

抗告人

河野道子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告人は「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」旨申立て、その理由として「原決定には、東京高等裁判所が同庁昭和五四年(ウ)第二一九号強制処分取消申立事件につき同年三月五日にした強制処分取消決定の解釈を誤り、抗告人の丸友産業株式会社(以下「債務者」という。)に対する別紙差押債権目録記載の債権の差押命令並びに転付命令の申立を却下した違法がある。」旨主張する。

二一件記録によれば、抗告人は、債務者に対する東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第一九五〇号売買代金返還請求事件の仮執行宣言付判決の執行力ある正本に基づき債務者所有の不動産(宅地四筆)につき強制競売の申立(同庁昭和五四年(ヌ)第三五号)をしたところ、債務者は右判決に対して控訴を提起すると同時に右強制競売申立に基づく強制処分取消の申立(当庁昭和五四年(ウ)第二一九号)をし、当庁は、同年三月五日右申立を認容し保証として金三二八万六八四九円を供託させた上、「右の強制処分は、本案控訴事件の判決あるまでこれを取消す。」旨決定した。そこで抗告人が更に前記債務名義に基づく強制執行として、別紙差押債権目録記載の右供託金取戻債権につき差押命令並びに転付命令の申立をしたところ、原裁判所は、右強制処分取消決定は、右の債務名義に基づく強制執行を一般的に停止する趣旨をも包含するものと解釈し、抗告人の債権差押命令並びに転付命令の申立を却下した。以上の事実が認められる。

三よつて案ずるに、民訴訟五一二条は、仮執行宣言付判決に対して控訴が提起されたときは、控訴人の申立により強制執行を一時停止し又はすでになされた強制処分の取消を命ずることができる旨規定するのであるが、その趣旨は、同法五五〇条第二、五五一条の各規定をも参酌して考えれば、控訴裁判所において、本案判決をするにいたるまでの仮の処分として、仮執行宣言付判決を債務名義とする強制執行の一時的停止を命ずることができるものとし、この強制執行の一時停止の具体的方法として、必要があれば執行停止のほかにすでになされた執行処分の取消をも命ずることができる旨規定したものと解すべきであり、従つて、右規定に基づいて強制処分取消決定が発せられた以上、該決定がすでになされた強制処分の一部のみを限定的に取消したと認められる特段の事情が存在する場合は格別、そうでなければ当該強制処分取消決定は、当然に当該仮執行宣言付判決を債務名義とする強制執行のすべてを停止する趣旨を包含するものと解するのが相当であり、この強制処分取消決定の効力は、右の趣旨が決定の主文中に明示されたか否かに関わらないものというべきである。

そして、前記認定の事実によれば、本件強制処分取消決定により取消された強制処分は、当時における前記債務名義に基づく強制処分のすべてであつたと認められ、一件記録を精査しても前記特段の事情の存在を窺える資料はないし、また抗告人が自ら右の強制処分取消決定の正本を執行機関たる原裁判所に提出したことは一件記録によつて明らかであるから、右の強制処分取消決定により前記債務名義に基づく強制執行のすべての停止が命ぜられたと解釈して、抗告人の債権差押命令並びに転付命令の申立を却下した原決定は相当である。

四よつて、本件抗告を失当として棄却し、主文のとおり決定する。

(田中永司 原島克己 岩井康倶)

差押債権目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例